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沖縄電力での停電について(2023年11月12日)

沖縄電力で停電があったようです。詳しい情報が発表されていないので、公開情報から分析してみたいと思います。私は業界の関係者ではなく書籍やインターネットの公開情報のみを知っているだけですので、ここに記したことはすべて素人の憶測でしかありません。正確には沖縄電力の詳報を楽しみに待っていただくようにまずは断っておきます。
停電の原因は吉の浦火力発電所2号機の脱落だそうです。1)
吉の浦火力2号機の定格出力は251,000kW(2))、所内電力率が5%と仮定すると送電端最大出力は238,500kW程度、もし50%出力であったとすると119,000kW程度であると思われます。気象庁のデータ3)によると那覇の本日の全天日射量は5.27MJ/m2、21時までの降水量は16mmらしいので、雨または曇りの天気であったと思われ(本日分は過去の天気予報も気象データも見られないので推測です)、太陽光は10万kW以下(沖縄電力「今日の需給状況」のグラフからの目視読み取りでは3万kW程度)、沖縄電力「今日の需要・発電状況」の5分値(グラフ1:13時から15時を筆者がグラフ化)では事故直前(13:50)需要が81万kW、事故後(13:55)が69万kWですので同期発電機78万kW(81万kW-3万kW)に対し電源脱落量は約12万kW+α程度であったことがわかります(差の12万kWは事故前後で周波数が標準周波数60Hzであったと仮定すると負荷脱落量=負荷遮断量)。電源脱落後の周波数低下量と沖縄電力の当時の系統定数がわかりません(公表されていない)ので、仮に電源脱落量を15万kWであったとすると電源脱落率が19%にも達するので、この系統容量では単機で20万kW以上ある発電機を並列しているのは無謀というものでしょう。当然、脱落後に手を打たなければ最終的には周波数低下リレーが動作しますが、その他の電源の連鎖脱落(過渡安定度の問題による脱落の可能性を含む)もあり得ますので最悪全系停電(ブラックアウト)してしまいます。それを防ぐために今回は周波数低下を予測して負荷(需要)遮断を行う系統安定化システムが動作した模様です。(資料1)では「系統安定化装置」と記載されている)
電気学会技術報告第869号「電力系統の常時及び緊急時の負荷周波数制御」には沖縄電力が参加しておらずデータがなかったこともあって、私は沖縄電力に系統安定化システム(SSC)が存在することを知りませんでしたが、沖縄電力の「事業計画(2023年~2027年度)」4)によると104ページに系統安定化システムの増強工事の計画が記載されており、別の資料では製作者の三菱電機の報告5)も出ているようです。
もし今日が晴で太陽光発電の出力が大きく、ネット需要が少なければ吉の浦火力2号機は停止していたかもしれず、その場合は脱落自体がなかったわけですが、吉の浦火力発電所に供給される天然ガスは導管方式ではなく、発電所にLNGタンクを持っているようですので、気化ガス(ボイルオフガス、BOG)の関係で少なくとも1台は並列されていますから、これは確率の問題でしたね。(たまたま故障した2号機がBOG制約で運転していたかユニットコミットメントの結果起動発電機として計画されていた時間数と、N-1故障(吉の浦火力2号機の単独故障)で系統安定化装置が起動しなければならない系統容量である総時間の比により決まる確率。なにしろ最低出力でも系統安定化システムの起動条件になってしまうのですから)2019年の電力広域的運営推進機関の報告6)では、沖縄は問題なしになっているんだけどなあ。
北海道電力も系統容量に対して最大容量の発電機が大きすぎるので問題がありますが、沖縄電力もそうだったとは知りませんでした。

1)沖縄電力「沖縄本島における停電について」(https://www.okiden.co.jp/shared/pdf/whats_new/2023/231112.pdf
2)沖縄電力「吉の浦火力発電所 2 号機の営業運転開始について」(https://www.okiden.co.jp/shared/pdf/news_release/2013/130523.pdf
3)気象庁「日別値一覧表」(今日中でこの表は書き換えられると思われます)(https://www.data.jma.go.jp/stats/data/mdrr/synopday/data1s.html
4)沖縄電力「事業計画(2023年~2027年度)」(https://public-comment.e-gov.go.jp/servlet/PcmFileDownload?seqNo=0000241961
5)三菱電機「三菱電機技報・Vol.86・No.9・2012」(https://www.giho.mitsubishielectric.co.jp/giho/pdf/2012/1209103.pdf
6)電力広域的運営推進機関「災害に強い電力供給体制の確認について~ブラックアウト発生の可能性の定期的な確認プロセスについて」(https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/denryoku_gas/denryoku_gas/pdf/021_06_02.pdf

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