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USB Type-Cのケーブルが死んだと思ったら実は複雑な事情があるようだった

3年前くらいに買ったUSB Type-Cのケーブルを久しぶりに繋いだら通電しませんでした。
物はYouZipperの高速TYPE-Cケーブル(USB3.1 PD対応 100W/Gen2 [最大10GB/s転送] 20V/5A/eMarker/ALT/4K)という当時としては何でもありのケーブルで長さは2mあります。規格的にはUSB3.2 Gen2だと1mまでのはずですが、まあ動けばよしと言うことなのでしょう。
長いケーブルが必要だったのは、テレビ会議のときに機材の配置によっては資料表示用のモバイルモニタ(15.6インチ)とノートパソコンの間の距離が長く、モバイルモニタに付属していた0.9mのケーブルでは足りない場合があったからです。
上のYouZipperのケーブルはPETのプラパックに入った状態で売られていたので買うときには気づきませんでしたが、ケーブルが硬くて太いため、取り回しに難があります。しかし当時は全部入りの(映像も伝送できる)ケーブルがあまりなく、しかも長尺のものは(規格外だから当たり前なのかもしれませんが)ほとんどなかったので選択の余地はありませんでした。
今回充電式のUSB扇風機に充電しようとこのケーブルを使用しました。扇風機の充電受け口の形状はUSB Type-Cですが、製品に付属していたケーブルは充電器側がType-Aのものでした。いつもはUSB-PD対応の30WUSB充電器(接続はType-C)に両端CのUSBケーブル(USB 2.0、 PD対応)で充電しており特に問題がなかったのですが、今回ケーブル部分をYouZipperのものにするとなぜか充電されない。昨夜はケーブルの故障(断線か)だとばかり思っていました。
今朝になってから同じケーブルを同じ充電器からスマホ充電に使ってみると正常に充電されています。ということは機器側でUSB-PD対応なら問題なく充電できると言うことです。今回は間に挟んだ測定器の表示を見るといつものように9V2A、18W程度で充電されています。
ところで、先に書いたUSB2.0、PD対応のケーブルは京ハヤという聞きなれない会社のもので、先のYouZipperの表記に倣うならUSB2.0 PD対応 60W [最大480Mbps 転送] 20V/3A/eMarker不明/ALT非対応/最大解像度不明 となるはずです。USB2.0なので最大転送速度がGB/s(ギガバイトパーセカンド)ではなくMbps(メガビットパーセカンド)なところは注意が必要(480Mbps≒0.06GB/s)ですが、充電という意味では今日は関係ありません。またeMarkerの有無は記載がなく不明、映像の最大解像度は表記がなく試していないのでわかりません。(後で試したら映像出力不可でした)
YouZipperと京ハヤでまず違うのは最大電流が5Aか3Aというところなのでしょうが、これはUSB-PDの規格的にはあまり影響はないはずです。むしろ関係しそうなのはeMarkerの有無です。eMarkerとはUSBケーブルの端子に内蔵されたチップで、自分の最大電流が何Aであるかなどの情報を充電器(あるいはホスト)と通信(ネゴーシエーション)する機能があります。私もあまり詳しくないので、だいたいの話として見ていただきたいのですが、USB-PDの非対応機器との接続では次のような手順で充電の電圧電流を決定しているようです。(※1を参考にしました)
ここでは充電器はUSB-PD対応、接続機器(扇風機)は非対応、ケーブルはYouZipperの場合eMarker付きUSB-PD対応です。
1.充電器はケーブルにその素性を訪ねる。
2.ケーブルのeMarkerは充電器に5A対応であることを伝える。
3.充電器はケーブルが5A対応であることを知る。
4.充電器は接続機器(扇風機)に対し、自分の能力(パワープロファイル)を伝える。この場合充電器は30Wなので最大電圧は15V(その他に9V,5Vも対応)、最大電流は3Aまたは2A(ケーブルは5A対応であるがUSB-PDの規格で9Vでは3A、15Vでは充電器が30Wなので30W/15V=2A以上流せない)、27W(9Vx3A)と伝える。
5.接続機器(扇風機)はUSB-PD対応ではないので、当然ながら応答しない。
6.応答がないので、扇風機とのネゴは失敗して、充電器はUSB2.0またはUSB3.2またはUSB Type-C CurrentまたはUSB-BC(Battery Charge)の規格に従って5Vを出力する。
このとき6番目の手順で最終的に5Vが出力されるのですが、最大電流の設定は一体どうなるのかがわかっていません。USB2.0なら0.5A、USB3.2なら0.9A、USB-PD Type-Cなら最大3A、USB-BCなら1.5Aというのが規格です。(今回の充電器はPPSにも対応しているがこれは無視)
京ハヤのケーブルの場合はおそらくeMarkerがないので、充電器はケーブルとも接続機器(扇風機)ともネゴが成立しません。その場合は一体どうなるのでしょうか。
別の文献(※2)で調べてみたところによると、USBは必ずUSB Host(Source)とUSB Device(Sink)の関係で接続されなければならないそうです。従来のA-PlugとB-Plugで接続した場合はA-Plug側がSource、B-Plug側がSinkになって確立しますが、Type-Cで接続するとccラインという信号線(cc1とcc2)でSourceとSinkの関係確立(Source側プルアップ=5V、Sink側プルダウン=0V)、供給電流の通知(プルダウン抵抗の値で決まる=Sink側は検知する電圧で判別)を行い、関係が確立したら初めてVBUSラインで電力供給となるようです。
だとするともし扇風機側のType-Cコネクタのcc1とcc2がプルダウンされていなければ、Source-Sinkの関係が成立しないので電源は供給されないはずです。しかもこのcc1とcc2は落ちっぱなしなので、関係確立後にはccラインの一方がDCONNというeMarkerへの電源供給に使われるのですが、これがSink(扇風機)側でプルダウン(おそらくはグラウンドに落ちている)されたままですので、ケーブルと電源(Source)間で何か問題があって、VBUSが供給されないままになるのではないかと想像します。
この考察の後、いろいろなケーブルで試してみましたが、eMarker付きのケーブルではことごとくアウトで、eMarkerなしのケーブルは全部OKという結果でした。eMarkerなしだとおそらく電流を決定する方法がないのでUSB-PDの規格の3Aまたは1.5Aで電源は動いているようで、実際に計測してみると5V、0.9~1.2A程度が出ているようでした。
やはりUSBの電源供給は付属ケーブル(電源も付属しているなら付属電源)で行うのが安全そうという結論に至りました。
勉強にはなりましたが、難しいですね。

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※1 「Type-Cポリスの憂鬱」(https://pc.watch.impress.co.jp/docs/column/config/1071659.html

※2 「はじめてのUSB [USB Type-C™ 及び Power Delivery規格入門]」(https://www.marubun.co.jp/technicalsquare/10483/

※その他参考にした資料

「【USB】第6回 USB充電を大きく変える新規格、USB PDとは?」(https://atmarkit.itmedia.co.jp/ait/articles/1812/14/news027.html

「USB Type-Cに置き換える方法 第1話 Type-Cの原理を知る」(https://emb.macnica.co.jp/articles/8968/

参考にした文献の表記に従って書きましたので、ブログ内で表記が揺れていますがご容赦ください。