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伊豆箱根バスの件について整理してみた

2022年4月7日に伊豆箱根バス伊豆・三津シーパラダイス線において、マスクをしない女性乗客について運送の継続を拒否した件について、9月1日に同社を国土交通省中部運輸局自動車交通部が行政処分しました。何が問題なのか整理してみました。素人なので内容に不備があればぜひ教えてください。

 

1.行政処分の内容

https://wwwtb.mlit.go.jp/chubu/press/pdf/jikou2022090101.pdf

(2022年9月3日参照)

処 分 日:令和4年9月1日 50日車(2両×25日間)
処分内容:事業用自動車の車両使用停止

法令違反
①正当な事由が無く、運送の継続を拒絶した。
道路運送法第13条違反)
②事業計画及び運行計画に定めるところに従い、その業務を行っていなかった。
道路運送法第16条第1項違反)
③主として運行する路線の状態及びこれに対処することができる運転技術並びに自動車の運転に関する事項について、運転者に対する指導監督が不適切であった。
道路運送法第27条3項違反)
旅客自動車運送事業運輸規則第38条第1項違反)

 

2.違反があった法令について

出典:e-Gov(2022年9月3日参照)

2-1.道路運送法第13条(正当な事由が無く、運送の継続を拒絶した。)

「一 当該運送の申込みが第十一条第一項の規定により認可を受けた運送約款(標準運送約款と同一の運送約款を定めているときは、当該運送約款)によらないものであるとき。」

2-2.道路運送法第16条第1項(事業計画及び運行計画に定めるところに従い、その業務を行っていなかった。)

「一般旅客自動車運送事業者は、天災その他やむを得ない事由がある場合のほか、事業計画(路線定期運行を行う一般乗合旅客自動車運送事業者にあつては、事業計画及び運行計画。次項において同じ。)に定めるところに従い、その業務を行わなければならない。」

2-3.道路運送法第27条3項(主として運行する路線の状態及びこれに対処することができる運転技術並びに自動車の運転に関する事項について、運転者に対する指導監督が不適切であった。)

 前二項に規定するもののほか、一般旅客自動車運送事業者は、事業用自動車の運転者、車掌その他旅客又は公衆に接する従業員(次項において「運転者等」という。)の適切な指導監督、事業用自動車内における当該事業者の氏名又は名称の掲示その他の旅客に対する適切な情報の提供その他の輸送の安全及び旅客の利便の確保のために必要な事項として国土交通省令で定めるものを遵守しなければならない。」

2-4.旅客自動車運送事業運輸規則第38条第1項(道路運送法第27条3項の違反内容と同じ)

「第三十八条 旅客自動車運送事業者は、その事業用自動車の運転者に対し、国土交通大臣が告示で定めるところにより、主として運行する路線又は営業区域の状態及びこれに対処することができる運転技術並びに法令に定める自動車の運転に関する事項について適切な指導監督をしなければならない。この場合においては、その日時、場所及び内容並びに指導監督を行つた者及び受けた者を記録し、かつ、その記録を営業所において三年間保存しなければならない。」

 

3.伊豆箱根バスの運送約款(道路運送法第13条関連)

http://www.izuhakone.co.jp/bus/files/bus_noriai_2022.pdf

(2022年9月3日参照)

「第4条 当社は、次の各号のいずれかに該当する場合には、運送の引受け又は継続を拒絶することがあります。
(1)当該運送の申込みがこの運送約款によらないものであるとき
(2)(省略)
(4)(省略)
(5)(省略)
(6) 旅客が乗務員の旅客自動車運送事業運輸規則の規定に基づいて行う措置に従わないとき
(7)(省略)
(8)(省略)
(9)旅客が泥酔した者又は不潔な服装をした者、監護者に伴われていない小児等であって、他の旅客の迷惑となるおそれのあるとき
(10)旅客が付添人を伴わない重病者であるとき
(11)旅客が感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律による一類感染症、二類感染症若しくは指定感染症(入院を必要とするものに限る。)の患者(これらの患者とみなされる者を含む。)又は新感染症の所見のある者であるとき」

 

4.素人の判断

今回の行政指導が行われた理由は

(1)運送約款に定めがない内容を事由として、運送の継続を拒否した。

(2)バス停留所でない位置で乗客の昇降を行った。

(3)(1)(2)の処置の誤りについて運転者に対して適切な指導を行っていなかった。

ということでしょうか。

ちなみに厚生労働省からは「マスク不着用者・発熱者の搭乗等拒否の根拠について」という文書が出ており、それによれば運送約款にマスク不着用者の乗車拒否を明確にうたっていなければ乗車拒否理由にはならないこととされています。

https://www.mhlw.go.jp/content/11130500/000852050.pdf

(2022年9月3日参照)

「(2) 道路運送法規において、乗車拒否をできる根拠
道路運送法規においては、病気等によりマスクを着用できない者がいることを考慮すると、マスクを着用できない事由のみをもって乗車拒否を行うことは適当ではないことから、約款上、運送事業者が、マスク非着用者に対し、着用しない理由を聞き取り、病気等の正当な理由がない場合に限り着用を求め、それでも着用を拒む場合には乗車を拒否することができる、との一連の手続を明確に規定する場合には、道路運送法 13 条 1 号の規定を適用して、乗車拒否をできることとしている。

旅客自動車運送事業運輸規則 13 条
感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(平成十年法律第百十四号)に定める一類感染症、二類感染症新型インフルエンザ等感染症若しくは指定感染症(同法第七条の規定に基づき、政令で定めるところにより、同法第十九条又は第二十条の規定を準用するものに限る。)の患者(同法第八条(同法第七条において準用する場合を含む。)の規定により一類感染症、二類感染症新型インフルエンザ等感染症又は指定感染症の患者とみなされる者を含む。)又は新感染症の所見がある者
※ マスク不着用者・発熱者は第5号に該当しないと解されている。」

これによれば新型コロナ感染症新型インフルエンザ等感染症)の所見があるものであれば拒否できそうですが、所見はきっと「医師の所見」がなければならないでしょうから、見た目でコロナの症状を呈しているだけではだめで、ましてやマスクをしていないだけというのは事由にならないように思います。

今回の事例の処分を法律的にみると「マスクを着用しないことをもって乗車拒否する」という運送約款を定めておかなかった会社に問題があり、さらに運送約款の定めのない運送の中断を行った運転手の処置にも問題があったのであり、マスクをしないで乗車した当該乗客には非はないということになりそうです。

一方で、新型コロナにおいては本邦ではいい方に働いたといわれる同調圧力に屈しなかった乗客は、日本社会においては不利益を被る可能性があるわけですが、まあどこにでもいますよね。個人的にはかかり合いになりたくない相手です。

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